WRITING
施工要領・社内基準・過去実績——AIに読ませる前に棚卸しすべき「コンテキスト資産」の全体像
「社内のナレッジをAIに参照させたい」という相談を受けると、ほぼ必ず同じ問いに行き着く——「社内のどこに何があるか、把握できていますか?」。RAGを構築する前に、参照させるべきコンテキスト資産の棚卸しが必要だ。棚卸しなしにRAGを作ると、「あの文書が参照されていない」「古いバージョンが残っている」という問題が後から次々と出てくる。
RAGを作る前に棚卸しが必要な理由——文書の所在が分からないと何もできない
建設業の社内文書は、部門・作業所・工事ごとに分散して管理されていることが多い。共有フォルダ・メール添付・ローカルPC・紙の書類棚——複数の場所に同じ文書の異なるバージョンが存在することも珍しくない。
棚卸しなし
担当者が知っている文書だけが登録される。重要な文書が漏れていても気づかない
棚卸しあり
社内文書の全体像を把握した上で、参照すべき文書を体系的に選定できる
棚卸しなし
複数バージョンが存在する文書のうち、どれが最新か不明なまま登録される
棚卸しあり
文書の更新担当者が特定されており、常に最新版を登録できる体制が整っている
棚卸しなし
文書が更新されてもRAGへの反映担当者が不明。鮮度管理ができない
棚卸しあり
各文書の更新担当部署が明確で、文書更新と同時にRAG更新ができる体制がある
実態 RAGを構築した後に「あの施工要領書が入っていなかった」「2年前の廃止版が残っていた」という問題が発覚するケースが多い。棚卸しに1〜2週間かけることで、後の修正コストを大幅に減らせる。
コンテキスト資産の4分類——参照価値と更新頻度で整理する
建設業のコンテキスト資産は、参照価値の高さと更新頻度の2軸で4つに分類できる。分類によって優先整備の順序と管理方法が変わる。
4分類の整理:
- 第1優先(高参照価値・更新頻度中): 施工要領書・品質管理基準 → RAGに組み込む。更新フロー整備が必要
- 第2優先(高参照価値・更新頻度低): 過去実績・トラブル事例 → RAGに組み込む。月次追加で維持
- 第3優先(中参照価値・更新頻度高): 法令・技術基準 → 都度検索推奨。RAG組み込みは慎重に
- 第4優先(低参照価値・更新頻度高): 現場日報・月報 → 統計分析用途には使えるが、回答精度向上への寄与は限定的
選び方 「全部入れる」ではなく「参照したとき回答が明確に改善する文書」から始める。最初は第1優先の10〜20文書に絞り、精度確認後に拡大するのが正しい順序だ。
- 施工要領書・社内基準
- 過去実績・工事完了報告
- 法令・技術基準
- 社内規定・安全マニュアル
- 過去実績・トラブル事例
- 設計図書・仕様書
- 現場日報・月報
- 会議議事録
棚卸しの手順と分類軸——3週間で完了させる実務
棚卸しを「社内文書をすべてリストアップする」という方向で進めると際限なく時間がかかる。「RAGに使えるか」という観点で絞った棚卸しなら3週間以内で完了できる。
注意 棚卸しで「オーナー不明文書」が大量に出てくることは珍しくない。この文書をRAGに入れると鮮度管理ができないため、オーナーを確定するか入れないかを判断する。判断を後回しにするとRAGの品質が劣化する。
目安 棚卸し対象の文書数の目安:技術系建設会社で初期は50〜100文書。大規模組織でも最初は100文書以内に絞ることを推奨する。RAGは文書数より文書の品質で精度が変わる。
優先度付けと整備スケジュール——棚卸しからRAG構築までの90日
棚卸しが完了したら、RAG組み込みのスケジュールを立てる。全文書を一度に整備しようとすると品質確認が追いつかない。
- 主要部門ヒアリングで重要文書を特定
- バージョン確認と更新担当者の特定
- 4分類への仕分けと優先順位確定
- オーナー不明文書の担当者割り当て
- 最新版の収集と形式統一(PDF・テキスト化)
- RAGへの組み込みと精度確認
- 更新フローの文書化(誰が・いつ・どう更新するか)
- 代表質問10問での動作確認
- 過去工事実績・トラブル事例の選定と組み込み
- 全体の精度確認(代表質問20問)
- 更新トリガーと担当者の通知設定
- ユーザー向けの利用開始アナウンスと研修
配分 90日のうち21日を棚卸しに使うことを惜しまないことが重要だ。棚卸しを省いた場合、RAG構築後の修正・再整備で結果的に2〜3倍の時間がかかる。